スマトラ沖地震の津波で家を失ったスリランカの人たちのために、福岡を中心とする市民の募金で建設された「福岡村」。
文/湯浅玲子   写真/横山隆俊
写真提供/国連ハビタット

国連というと、私たちの生活とは縁遠い存在と感じる人が多いかもしれません。福岡市には九州唯一の国連機関である国際連合人間居住計画(ハビタット)アジア太平洋事務所(福岡)があります。発展途上国で居住環境の改善に取り組む同事務所で、事務所長を務めるのが野田順康さんです。国連機関の活動についてお話を伺うと同時に、アジア太平洋地域が抱える課題や福岡に住む私たちにできること、さらに今後の日本がどうあるべきかについてお聞きしました。
 

―プロフィール―
1953年生まれ。北海道大学大学院修士修了。79年、旧国土省入庁。内閣府参事官、国交省総合計画課長などを歴任。国連経験では83年ケニア、89年スイスに赴任。2002年に続き、06年2度目の国際連合人間居住計画(ハビタット)アジア太平洋事務所長を務める。専門は国土・地域計画学、開発政策、災害・防災。

急成長で格差が拡大するアジア。持続可能な都市づくりが大きな課題。
 

―まず最初に国連ハビタットおよびアジア太平洋事務所について教えてください。

野田
「国連ハビタットは発展途上国で住宅、その回りの道路、上下水道、廃棄物処理施設などを整備しています。いわゆる土木建設業に近い組織と考えていただけると分かりやすいと思います。時には人口1万人規模の『まち』をつくることもあり、これはもうニュータウン開発の一種ですね。アジア太平洋事務所ではアジア太平洋地域の28カ国を担当し、多いときには年間20万戸の住宅を造ります。予算規模は約190億円あり、これは日本にある国連オフィスとしては最大規模。同じ国連ハビタットのリオ・デ・ジャネイロ事務所と比べても10倍の予算規模があり、事業規模としても世界的にインパクトの大きい事務所なのです」
※以下「 」内すべて野田氏

アフガニスタンでは、内戦の最中でも、6,750戸の住宅とトイレの建設、水供給システム、道路の再建に取り組んだ。

―ハビタットの仕事をする上では、どんなことが課題になるのでしょうか?

「私たちが活動しているのはアフガニスタン、パキスタン、スリランカ、インドネシアなど、自然災害や紛争が起こっている地域です。ですから職員の安全を守る危機管理やセキュリティは何よりも大切です。またアジア太平洋地域はさまざまな意味で多様性に富んだ地域です。経済成長だけを見ても玉石混交で、ここ数年で急成長をとげた中国やインドがある一方、世界最貧国もいくつか存在しています。さらに一つの国の中でも都市と農村部の格差が広がったり、あるいは都市内部での貧富の差が広がったりと、非常に複雑な社会構造を抱えています。こうした状況の中、社会の安定をめざすのがアジア太平洋地域のこれからの課題でしょう」

―その中でアジア太平洋事務所の役割とは?

「まず、できるだけ廉価な住宅を素早く造ることが大切な役割です。同時に環境に配慮した都市、持続可能な都市づくりを行なうのが重要だと考えています。これからアジアの都市人口は急激に増えていきます。巨大都市がアジア太平洋地域にいくつもできることになるのです。そうなると環境問題がますます大きな課題になるでしょう。これをどう解決していくかを考えていかねばなりません」

―持続可能な都市実現のためには具体的にどうすれば?

「やはりエネルギー問題が大きいですね。例えばCO2削減にしても、すでに工業分野での排出量は減ってきていて、これから課題になるのは、交通と一般生活です。カナダのカルガリーには『風に乗ろう計画』というのがあって、市内を走る電車のエネルギーを100%風力発電でまかなっています。福岡でも参考にするといいと思いますが、今後のアジアの巨大都市でも交通問題は大きな課題です。どれだけエネルギー効率のいい公共交通をきちんと整備するかで、持続可能な都市が実現できるかどうかが決まってくると思います」

 

国際連合人間居住計画(国連ハビタット)とは?

国連ハビタットは、世界中の人たちが安心して快適に暮らせる「まちづくり」の推進のために1978年に創設。本部はケニアのナイロビにあり、96年にラテンアメリカとカリブ海地域を担当するリオ・デ・ジャネイロ事務所、97年にアジア太平洋地域を担当する事務所が福岡に開設された。「ハビタット」とはラテン語で「住まい」という意味。

【 プロジェクト事業例 】
カンボジア・プノンペン市を中心に、都市部貧困層が生活するスラムの劣悪な居住環境(写真上)も、国連ハビタットによる支援で改善が行われた(写真下)。

国際連合人間居住計画(ハビタット)
アジア太平洋事務所(福岡)
福岡市中央区天神1-1-1アクロス福岡8階
092-724-7121
http://www.fukuoka.unhabitat.org/

 

 
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