熊本県民はことさら郷土愛の
強い人々である…とはよく聞く話。
実際、この地を訪ねてみれば、
それもうなずける気がする。
「水の都」「森の都」。
熊本には昔から、こんなに素敵な
冠がついていたのだから。
街でも田舎でも、このふたつには事欠かない。
もちろん水前寺成趣園もそのひとつだ。
 
文/葉山巧 Text:Takumi Hayama
撮影/三笘正勝 Photo:Masakatsu Mitoma
絵/浜竹睦子 Illustration:Mutsuko Hamatake
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 旧の土産物屋が並ぶ参道のその先に、水前寺成趣園(通称・水前寺公園)の入口はある。阿蘇からの伏流水がこんこんと湧きだす池を、複雑な形状の芝山や木々の枝葉が取り囲む桃山式の回遊庭園。ここは、熊本という場所をよく象徴しているように思える。豊かでうまい水脈をもつ「水の都」の顔。樹木の多さから夏目漱石が名付けた「森の都」の顔。そのふたつがこの上ない形で共存しているからだろう。ゆっくり視線をめぐらすと、初夏の陽光が照り返り、刺すような輝きを放つ緑が目に飛びこんできた。秋頃からは、この鮮烈な色彩も褪せてしまう。訪れるなら、やはり春から夏にかけてのシーズンが最良だ。肥後藩主細川家が3代にわたり築いた水前寺成趣園は「東海道五十三次」を模して造られたという。ほう、それではあれが富士山で、池は琵琶湖。とすると箱根や小田原はこのあたりか?
 そんな想像をふくらませながら、池の周囲の散策路をのんびりと歩く。庭園の向こう側で頭を突きだしているビルの影に気づくまで、いつしかすっかり人口67万都市の中心部にいることを忘れていた。

全国にも名高い水前寺公園は、寛永13年(1636年)に細川家3代(初代肥後藩主)忠利公が御茶屋を築造したのをきっかけに、その後4代光尚公、5代綱利公の3代まで、約80年の歳月をかけて完成した。名称は陶淵明の詩から「成趣園」と命名され、正式には「水前寺成趣園」という。園内には出水神社、能楽堂などがあり、毎年約100万人の来園者が訪れる。入園400円。写真(上)は古今伝授の間から見た眺め。
[水前寺 成趣園]
熊本市水前寺公園8-1 TEL:096-383-0074
営業時間:7:30〜18:00(12〜2月は8:30〜17:00)  休:なし
 

 の庭園のもっとも完璧な眺めを楽しめるのは〈古今伝授の間〉。県の重要文化財であり、国内初の勅撰和歌集『古今和歌集』にまつわる由緒ある建物だ。当時、勅撰和歌集(勅命または院宣を奉じて編纂した歌集)の原盤に触れ、和歌を解釈することを許された少数の人々がいた。細川家初代幽斎公もそのひとりで、彼が八条宮智仁親王に『古今和歌集』解釈の奥義を伝授したのがここなのである。
 しばし歴史へと思いをはせ、水前寺成趣園をあとにした。雰囲気ある小道を進み、県下最古の西洋建築ジェーンズ邸と夏目漱石第三旧居へ。そこから南東へ行くと熊本県庁に到着。ここのイチョウ並木は素晴しい。秋の紅葉はもちろんだが、明るい緑の葉が風にそよぐ様がこれほど美しいとは。濃い木陰でクールダウンする人々に混じり、陽光に透けるイチョウを見上げながらひと休み。繁華街からさほど遠からぬ水前寺界隈には、また違った街の表情があった。そして最後に、今回どうしても行きたかった江津湖へ向かう。1日およそ40万トンが湧きだす国内有数の湿地で、湖面にはボートが浮かび、芝生広場では家族や友人同士が憩いの時間を過ごしている。水前寺成趣園が鑑賞用ならば、まさに江津湖は「水の都・森の都」を体感する場だ。
 芝生に腰をおろす。昼間の汗ばむ気温も落ち着いてきた。さて、路面電車の線路に沿って繁華街まで歩くとするか。いや、と思い直す。やっぱりもうしばらくここにいよう。日暮れ時の江津湖の光景を、見ずに立ち去るにはあまりに惜しい。

 
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【2004年7月現在】
[福岡→熊本]ひのくに号
●運賃

福岡(博多駅・天神)→通町筋
片道2,000円(往復3,600円)
4枚綴り回数券6,400円
※座席定員制

●所要時間 1時間44分(天神〜通町筋間最速)
●運行本数 1日100往復
●お問い合わせ 西鉄テレホンセンター福岡
TEL:092-733-3333
http://www.nishitetsu.co.jp/bus/highway/ 

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