温泉地は全国に数あれど、
杖立温泉ほど情緒豊かな風貌を持った場所はあまりない。
そんな由緒ある湯治場も、
ある時期だけは景色が一変。
風になびく多くの鯉のぼりが、
春の川面を極彩色に染めるのだ。
うれしい驚きが「舞って」いる 5月の杖立温泉でリフレッシュ!
 
文/葉山巧 Text:Takumi Hayama
撮影/三笘正勝 Photo:Masakatsu Mitoma
絵/浜竹睦子 Illustration:Mutsuko Hamatake
------------------------------------------------------------------------------------
 



 惑的な骨董がそうであるように、多くの「古きもの」には、人をホッとさせる力が宿っている。
 川を挟んだ山あいに、ぽっかり現れた杖立温泉もそのひとつ。何カ所からも湯煙がたちのぼる、レトロな箱庭のような旅館街。今では法律上、建造することができなくなった木造3〜4階建ての建物は、おもに昭和6、7年頃のものだとか。昭和初期のまま保存されたかのごとき情景は、目まぐるしい日常に疲れた来訪者をやさしく包む、なによりの歓待だ。
 杖立温泉では「侘び・寂び」という言葉をつい思い浮かべてしまう。澄んだ空気を吸い、杖立川のせせらぎに耳を傾けながら道を歩くだけで、この町でしか体感できない素晴らしさが伝わってくることだろう。
 そんな普段は静かな温泉街も、5月だけは普段とは違う華やかな一面を披露する。すっかり名を知られるようになった恒例の『鯉のぼり祭り』である。子どもの成長を願って各地から寄せられた鯉のぼりの群れが、1カ月間泳ぎ続ける風物詩。渓谷を吹き抜ける風に、はためく原色の競演は、時を忘れて見入ってしまう躍動美に満ちている。この壮麗な絵巻を見るために全国から人が集まり、いつもの静かな温泉街は気にあふれるのだ。

「杖立温泉 鯉のぼり祭り」は4月15日〜5月16日に催される。20年以上前に始まった頃は50匹だった鯉のぼりも、いまではおよそ3,500匹に。期間中、19時からはライトアップも行なわれる。GW中は屋台の出店やイベントもあり。
 

 立の温泉は、無色無臭の弱食塩アルカリ泉。湯治場として人気を集めてきた要因でもある泉質の良さは、地名の由来からもうかがえる。「弘法大師が竹の杖を立てると節々から枝や葉が生えてきた」説。そして「杖をついて訪れた老人や病人が、湯治の後にはそれを忘れて元気に帰った」説  と2つのいわれがあるが、どちらも抜群の効能を物語ることに変わりはない。
 そんなわけで早速、蒸し湯を試してみた。これは杖立に古来から伝わる、100度近い源泉の蒸気を利用したサウナのようなもの。呼吸がラクなのは、温泉成分を含んだ蒸気のおかげか。薄暗いスペースにゴロンと身を横たえる。と、2分後には全身から吹きだす汗でびしょ濡れになっていた。快い疲労を抱いて、今夜は久々にぐっすり眠れそうだ。
 いま杖立は、食・体・温の3つをキーワードに「健康の里」づくりを進めているという。薬膳料理を出す旅館が「食」を担当。「体」については、友好都市の中国華南省登封市の先生に学んだ気功体操・八段錦を、住民が毎朝9時から屋外で行っている。もちろん滞在客の”飛び入り参加“も大歓迎だ。少林寺の武僧を招き、毎夏2週間実施する学生対象の武術合宿も好評。「温」はもちろん温泉だ。
 こうした試みに説得力があるのは、前述したように杖立が「過剰さ」とは無縁の町だからである。安らげる環境と、ゆっくり過ぎていく時間。それだけあれば、自分を一番いい状態にリセットするのはさして難しいことじゃない。
 杖立温泉で得られる心地よさの正体。それはきっと、自然のリズムを取り戻すことの幸福感なのだ。

 
------------------------------------------------------------------------------------
【2004年5月現在】
[福岡→杖立]ひた号(共同運行 日田バス)
●運賃

福岡(博多駅・天神)→杖立
片道2,550円(往復4,600円)
スーパー乗車券(4枚綴り)8,200円
※座席定員制

●所要時間 2時間32分(天神〜杖立間最速)
●運行本数 1日往路4便・復路6便
●お問い合わせ 西鉄テレホンセンター福岡
TEL:092-733-3333
http://www.nishitetsu.co.jp/bus/highway/ 

 ↑↑↑
 クリックすると拡大して
見ることができます