日田市がもっとも生き生きと輝く季節。
それが3月である。
江戸時代に生まれた雛人形たちが人々の前に姿をあらわし、
天領時代の栄光の記憶を体現するのだ。
国内各地にちょっとした「お雛様ブーム」を巻き起こした
『天領日田おひなまつり』。
多くの観光客を魅了してきたこの催しは、今年で20年目を迎える。
 
文/葉山巧 Text:Takumi Hayama
撮影/三笘正勝 Photo:Masakatsu Mitoma
絵/浜竹睦子 Illustration:Mutsuko Hamatake
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 ったく知識というやつは、いくらあっても重荷にならない。新しい見方を知れば、なんとなくやり過ごしてきたものが「宝物」に思えたりして、世の楽しみがグンと広がるのだから面白い。『おひなまつり』で賑わう大分県日田市で、久々にそんなことを教えられた。
 日田市豆田町の〈廣瀬資料館〉には江戸期の雛人形や調度品が展示されている。「年齢相応」な、くすみ具合。もし「お雛様はピカピカであるべし」という態度で臨むなら、ここの人形は地味なものにしか映るまい。
 ところが安藤正則館長の解説を聞くと印象は一変。「引き目・かぎ鼻が京びなの特徴」から始まり、「当時、雛人形一体または一対の価格は普通の家一軒に相当」「この人形の召した着物を作りなおすなら、一反4千万円の生地になる」「牛車を引く牛は、単色よりぶちがあるほうが高級品。なぜなら…」など、価値や社会風俗にまつわる興味深い逸話が次々と飛びだしてくる。それからもういちど雛人形を見直してみると…それはさっきまでのお雛様ではなかった。人形職人の匠の技が注がれた芸術であり、子どもの成長祈願が託された「思い」の固まりであり、数百年の時を越えた歴史の証人だった。

今年は2月15日〜3月31日にかけて、日田の旧家に残る貴重な雛人形を一斉に公開(〈草野本家〉のみ2/22から)。自宅の蔵や店舗内、資料館など各所に展示されており、「雛見物=日田めぐり」が楽しめる。
[問]日田観光協会 0973-22-2036
 

 日田は天領(江戸幕府の直轄地)として、かつて繁栄を享受した地。やがて近代に入ると天領時代ほどの活気はなくなるが、賑わいを取り戻すきっかけとなったのが「お雛様」だった。県内最古の商家〈草野本家〉による「所蔵していた雛人形を一般公開したい」との試みが、「日田の古い町並みを観光に活かそう」と頑張っていた地元の人々の動きと連動。それは昭和59年、後に全国で多くの追従イベントを生み出すことになる『天領日田おひなまつり』として結実した。開催中に訪れる観光客はいまや18万人。この時期の日田(つまり「会場」となる豆田町と隈町)は天領時代もかくやの盛況ぶりだ。
 雛人形の展示会場はおよそ20カ所にのぼる。そこに鎮座するのは、元禄・享保・天保・明治時代…と、よくぞ今まで残しておいたと感心させられる多彩な人形たち。これは同時に、いかに天領時代の日田が富める町だったかを物語る事実でもある。なにしろ雛人形自体が贅沢品だったうえ、それを保管するには蔵か大きな倉庫が不可欠なのだから。今も当時の蔵が多く残る日田だからこその催しであることを、あらためて実感。
 歩きながら、ある店の主人の言葉を思い出した。「この時期は町全体が博物館になったみたいで楽しいねえ」。心中で同意しつつ、豆田町から隈町へ歩を進める。ここは散策するのに適度な距離でありながら、豆田とは趣を異にするひなびた町の表情がいい。温泉があり、美食の名店も隠れるように点在している。でもそうしたお楽しみの前に、悠々と流れる三隈川のほとりに立ってみよう。もしかしたら見つかるかもしれないな―すぐそこまで来ている春の匂いが。

 
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【2004年3月現在】
[福岡→日田]ひた号(共同運行 日田バス)
●運賃

福岡(博多駅・天神)→日田(日田バスセンター)
片道1,750円(往復3,150円)
スーパー乗車券(4枚綴り)5,600円
※座席定員制

●所要時間 1時間21分(天神〜日田バスセンター間最速)
●運行本数 1日49往復
●お問い合わせ 西鉄テレホンセンター福岡
TEL:092-733-3333
http://www.nishitetsu.co.jp/bus/highway/ 

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